コラム
「マイホームを購入する」とひと言で言っても、一戸建て住宅かマンションか、広さ、立地などさまざまな選択肢があります。マイホームの検討を始めた場合は、まず数ある選択肢から絞り込んでいく必要があるでしょう。
特に、一戸建て住宅かマンションかという選択肢は大きな意味を持つことになります。購入の際にかかるコストやリスクとともに、暮らし始めてからの快適性を含めて、総合的にどちらがどのように優れているかを三重県の事情を踏まえながらお話しします。
購入時はマンションのほうが安いが、30年間の居住費では一戸建てのほうがお得
とある大手不動産サイトの情報によると、土地付き一戸建てとマンションをそれぞれ資産価値が3000万円の物件を購入する場合、購入にかかる費用は一戸建てのほうが30~40万円ほど高くなります。
(株式会社リクルートホールディングス調べ。以下同)
しかし、30年間暮らした場合の居住費を計算すると、マンション家庭のほうが一戸建て家庭よりも約1000万円支出の平均が大きいようです。この居住費とは、住宅ローンの返済費用に加え、駐車場代、修繕費用、火災保険費用などを含んだ金額です。
一戸建ては、火災保険料と水道加入負担金が高い
一つずつ詳しくみていきましょう。
購入価格の面で考えた場合、マンションの方がコストを抑えられます。購入時にかかる費用には、物件価格以外に印紙税や登録免許税などの税金関係、ローン手数料や団信保険料などの住宅ローンに関わる費用などがあります。中でも一戸建てとマンションで大きく差が出るのは、一戸建ての場合にかかる特約火災保険料と、水道加入負担金です。これらは、マンションに比べて30~40万円高くなる傾向があります。
マンション居住費では駐車場代がポイント
次に、30年間の居住費を比較してみます。
ここで差が出るのが、マンションの修繕積立金、管理費、駐車場代の3種類です。一戸建てにはこのような月々のコストはかかりません。ただし、一戸建ての場合、修繕積立金に関する毎月の支払いは必要なくても、修繕が必要なときには全てのコストを自分たちで補わなければいけません。
住宅の維持には、外壁の塗り替えや屋根の補修、防水や防虫などいろいろなコストや手間がかかります。先出のアンケートによると、マンションの修繕積立金30年分と、一戸建てに30年間住んだ場合のメンテナンス費用を比較すると、ほぼ同等か一戸建てのほうが費用がかかるという結果が出ています。
管理費は、マンション共有スペースの清掃やエレベーターのメンテナンス、管理人の人件費、などの費用です。一戸建てにはかからない費用ですが、マンションのオートロックに比べて一戸建てはセキュリティに不安があるからと言ってSECOMを付けたり、庭の手入れをしたりすると、ある程度の出費は一戸建てにも発生します。ただし、修繕積立金のように、マンションと一戸建てがほぼ同額ではなく、共有部分が多い分マンションのほうが管理費に関する金額は大きくなります。
一戸建てとマンションの生涯居住費の中で、一番差が大きいのは駐車場代です。三重県の場合、地価がそんなに高くないので都心部ほど高くはありませんが、それでも駅近のマンションであれば月5千円~1万円程度はかかります。三重県は車社会で、100人当たりの車の所有台数が全国でベスト10に入るほどです。成人すると1人1台車を所有するという家庭も少なくありません。仮にマンションに居住し家族3人が車を所有した場合、駐車場代だけで数万円かかってしまう計算になります。
将来の資産形成を考えると一戸建てがお得
次に、ローンの支払いが完了した後の資産価値について比較をしてみます。
一戸建てやマンションに関わらず、マイホームを持つことは、自分の資産を形成するといった意味があるため、賃貸とは違い住居費のコストはムダにならないと考えられるでしょう。つまり、土地や建物が自分の資産であり、将来的にその価値を子孫へと受け継がせることができるということです。
一戸建て住宅は、資産価値という意味合いではマンションよりも高い傾向があります。もちろん、マンションにも資産価値はありますが、同じ条件のもとで比較をすると一戸建てほどではありません。これは三重県に限らず、日本全国どこでも同じ傾向です。
マイホームの資産価値としては、土地と建物の価値が評価されます。通常、建物部分は時間の経過とともに劣化していき、価値も下がっていきます。しかし、土地部分は建物の築年数や劣化の具合に関わらず資産価値はそのまま残ります。土地だけを考えれば、年々路線価や取引価格が上昇しているエリアもありますので、時間の経過とともに資産価値が高まる場合もあるでしょう。
一戸建て住宅であれば、その土地の価値がそのまま自分の資産となり、資産価値としては下がりにくくなるのです。一方、マンションの場合には、集合住宅として土地と建物部分を分離することができず、土地の所有権は敷地権になります。マンションを購入して登記する際には、土地と建物を離せずに登記されます。その際、自分の土地の持ち分を敷地権割合と呼びますが、その割合は一戸建てと比較すると小さくなりがちです。
売買する際には、建物の分譲部分の価値や評価が大きく影響して、時間の経過とともに価値が下がりやすくなります。将来的なことを見据えて、資産という意味で考えた場合は、マンションよりも一戸建て住宅の方が価値が高いといえそうです。
自由度が高く、長く使いやすいのは一戸建て
マイホームを購入する場合、自分たちの暮らしやすさや理想の生活を考えうえで、土地や家のデザインや機能性、間取りなどを検討すると思います。そのためにも、一戸建てとマンションのどちらがお得かを比較するなら、お金のこと以外に、生活面でもそれぞれの特徴があることを知っておいて下さい。
三重県内は、気候や環境、土地の価格がエリアによって大きく異なります。そのため、一戸建て住宅の方が、自分の判断でさまざまな選択肢からべると言えるでしょう。マンションは、建物に複数の人が居住するため、一般的に人気のエリアに建てられます。また、設備・間取りに関しても、ある程度決まっている傾向があります。そのため、一般的な条件以外に求めたいものがある場合には、自由度の高い一戸建て住宅がおすすめです。
また、一戸建て住宅であれば、庭や駐車場などを自分たちの基準で確保することができます。三重県は、1人1台ずつ車を持つ家庭が多いですが、子どもが小さい頃は庭を広くとり、成人して車を持ったら庭を駐車場に変更することも可能です。
さらに、一戸建て住宅の場合、隣家とのスペースを保つことができるため、騒音などの住民間のトラブルが少なくなりそうです。幼い子供がいたり、ペットを飼ったりする状況下でも、ご近所と自分たちのストレスを減らして暮らせることでしょう。
若い世代がマイホームを持つと、暮らしていく長い期間の中でいくつものライフステージを迎えます。出産や年老いた親との同居、子供の成長と独立など家庭内にも大きな変化があるでしょう。そうなったときに住居の間取りを変える必要が出たり、増築や改築をしたいと思うかも知れません。このようなライフステージに合わせたアレンジも一戸建て住宅であれば自由に行えます。
立地と利便性をとるならマンション
三重県内では、エリアによって土地の評価額が大きく違っており、人気のエリアやその土地の主要ターミナル駅の周辺などでは物件価格が高くなりがちです。主要駅からの徒歩圏内には、三重県内の土地の平均坪単価を大きく上回る物件も多くあります。
しかし、一戸建てではなくマンションを選ぶことで、購入価格を抑えつつも比較的利便性の高いエリアに居住することが可能です。また、マンションの立地としては便利さを重視する傾向があり、人気エリアの主要駅周辺に物件が多くなっています。そのため、マンションであれば価格を抑えながらも選択の幅を広げて、より便利な場所で暮らせる可能性があるのです。
たとえば、人気のエリアである桑名市や四日市市、鈴鹿市などでも、駅に程近い場所にマンション物件が多く、その周辺には学校や病院、ショッピングスポットなどにも恵まれた便利さがあります。通勤や通学、お出かけで電車を利用することの多い家族には、アクセスに恵まれた立地であることは重要です。
マンションは近所が近いうえに、管理組合へ参加することで人付き合いが多くなり、負担を感じることもありますが、マンション内を一つのコミュニティとして団結できるのは良い点と言えそうです。ほかの居住者との協力や交流がスムーズになり、人の輪の中で生活できるでしょう。
余談ですが、とある県でマンション内では挨拶禁止なんていうニュースが流れていました。意図としては、マンション内で挨拶する習慣を負担に思っている人がいることや、不審者の見分けがつかない子どもの安全面に配慮して、とのことでした。賛否両論の意見が報道されていましたが、三重県の集合住宅では、比較的コミュニティを大切にする傾向が強いように感じます。
一戸建てとマンション、購入の決め手ベスト10
最後に、一戸建てまたはマンションを購入した方がそれぞれ何を決め手にしたか、アンケートにもとづくランキングをご紹介します。
マンション購入の決め手ベスト10
1位 オートロックや監視カメラ、管理人などセキュリティ面が安心。
2位 スーパーや病院など生活環境の利便性が高い地域で暮らせる。
3位 管理やメンテナンスなどを管理会社が手配してくれるので楽。
4位 最寄り駅に近く徒歩圏内に住める。
5位 一戸建てより安い。
6位 コンクリートマンションなど構造がしっかりしている。
7位 日当たりが良い。
8位 眺望が良い。
9位 ゴミ出しなど生活が楽。
10位 住み替えが楽。
意外にも、上位10項目のうちお金に関わる項目は1つだけでした。しかも5位です。一戸建てかマンションかを決めるとき、お金よりも重視する点が多いことが分かります。また、マンション購入の決め手には「楽(らく)」という言葉が並びます。マイホームに求める要素として重視されているようです。
一戸建て購入の決め手ベスト10
1位 上下階の騒音に悩まされない。
2位 資産価値としての土地が所有できる。土地があれば建て替えも自由。
3位 駐車場代が掛からない。
4位 廻りの家に気を遣わず自由に暮らせる。
5位 管理費や修繕積立金がかからない。
6位 資産価値が高い。
7位 注文住宅ならプランも自由に作れる。
8位 自由に使える自分の庭がある。
9位 充分な広さがある。
10位 日当たりが良い。
マンション購入者の意見とは逆に、一戸建て住宅購入者の決め手には金銭的理由が多く並びます。土地付き一戸建てのほうが費用がかかるイメージのある方も多いと思いますが、一戸建てを購入する方は慎重に負担額を比較しているようです。
また、一戸建て購入の決め手には「自由」という言葉が目立ちます。結論的には、「生活をできるかぎりラクにしたいマンション派」と、「自由に生活したい一戸建て派」と言ったところでしょうか。
ちなみに、同アンケートではそれぞれの悩みもいくつか紹介されていました。
マンションの悩み
・毎朝、新聞を1階のエントランスまで取りに行くのが面倒。
・朝の通勤時など急いでいるときにエレベーターが少なく待ち時間が長くなりイライラ。
・管理費や修繕積立金がかかるので月々の負担が重い。
・管理組合の理事の順番などが巡ってくるのが面倒。
やはり「ラク」に暮らしたいマンション派の方にとって「面倒」なことは悩みのようですね。
次に一戸建ての悩みはというと……
一戸建ての悩み
・庭の手入れが大変。
・冷暖房代や照明などの光熱費がマンションよりもかかる。
・旅行などで長期不在にするとき防犯が不安。
・通りや隣の家からの視線が気になる。
庭の手入れや防犯などは、マンション派の方が「管理費」で解決している部分と言えます。一戸建ては管理費の費用負担がない分、自分たちでやらなくてはいけない点が増えます。光熱費や外部からの視線に関しては、技術力の高い建築会社に出会うことができれば、設計段階で断熱性能や間取りを工夫して解決することができます。
まとめ
マイホームは大きな買い物ですから、購入の決断には慎重になるものです。一戸建て住宅かマンションかの選択で迷っている人は、それぞれのメリットとデメリットを把握することを決断のきっかけにしてください。そのメリットを生かせたり、デメリットを感じたりする部分は、それぞれの家庭の特徴やライフスタイルによって違います。また、デメリットと思うことでも住宅会社や不動産会社などのプロに相談することで解決できる場合もあります。
一戸建てかマンションかに限らず、マイホーム取得にはたくさんの選択をしていかなくてはいけません。そのとき大切にして頂きたいのは、
1. 第三者の意見や情報に惑わされすぎず、率直に家族にとって理想のマイホームのあり方を考え、それを実現できる方法を選ぶこと。
2. 建築条件や各家庭によって状況は異なるので、メリットやデメリットを一般論だけで決めつけず、プロの意見を聞いてみること。
この2つが失敗しないマイホーム取得のための近道と言えるでしょう。