コラム
2022年10月、それまで等級1~4までしかなかった断熱等級に、等級5、等級6、等級7が新設されました。
断熱等級とは、国土交通省が住宅品確法で定めている、住宅の断熱性能の基準です。等級1が無断熱の家、等級2、等級3と性能が徐々に上がり、等級4は「次世代省エネ基準」と長年にわたり呼ばれていました。それが2022年に一気に上位等級5~7まで新設された形です。
ではなぜここへきて急に上位等級が新設されたかと言いますと、そもそも日本の住宅の断熱性能は世界に比べて圧倒的に低いレベルだということです。住まいの断熱性能が低いということは、冷暖房エネルギーを不必要に垂れ流しているということです。
断熱等級という評価基準こそありましたが、2023年現在、日本政府はこの等級に対して義務水準を設けていません。極端に言ってしまえば、本人さえ良ければ無断熱の家でも建てることができます。実際に日本の既存住宅のほとんどが等級1~3レベルの断熱水準しかありません。
それがようやく2022年、脱炭素社会に向け政府が断熱等級5、6、7を新設し、住宅事業者が断熱等級6の家や7の家に着手し始めました。今日はこの上位等級についてお話ししたいと思います。
断熱等級をコスパで考える
断熱性能が高いということは室内の冷暖房使用量を抑えることができるので、断熱等級4よりも断熱等級5。断熱等級5よりも断熱等級6、断熱等級6よりも断熱等級7の方が省エネと言えます。
なお、 断熱等級4の家に比べ断熱等級5の家は、25%以上省エネ 断熱等級5の家に比べ断熱等級6の家は、20%以上省エネ 断熱等級6の家に比べ断熱等級7の家は、10%以上省エネ と言われています。
これはあくまで概念ですが、断熱等級4から断熱等級5に変えることは省エネ効果が高く意味があるように思えますが、等級6、等級7と上がっていくにつれて省エネ率が下がっていて、しかもその割に性能アップのための建築費増が大きくなります。平均的な30~35坪の住宅で300万円以上のコストアップになります。
では断熱等級6や断熱等級7の家はあまり得ではないのかというと、そういうわけではありません。
断熱等級を健康面で考える
住宅の断熱性能と住む人の健康について長年研究を続けてきた近畿大学建築学部の学部長・岩前篤教授は、断熱等級6・7の家の意義についてこのように考えています。
断熱等級4で各部屋間欠暖冷房する場合と、 断熱等級5で各部屋連続暖冷房する場合と、 断熱等級6で全館連続暖冷房する場合、この3つは同程度のエネルギー消費になる。 さらに、断熱等級7になると、全館連続暖冷房で20%以上省エネできる、と。
つまり、岩前教授は住宅の断熱性能に暖冷房方式の種類を加味して、省エネ性と健康性の両側面から断熱上位等級の意義を説明されています。
日本では今まで各室間欠暖冷房が一般的でした。これは世界的にみても稀な方式なのですが、世界の話は別の機会に。
上記3つの暖冷房方式の中で、もっとも体に負担が少なく健康に過ごすことができるのが、全館連続暖冷房です。冬季の暖房室と非暖房室の急激な温度差で心臓に負担が掛かり発作を起こすヒートショックは有名ですが、疾病だけでなく溺水や転倒といった家庭内事故も、断熱性能の低い家のほうがリスクが大きくなるのです。これは、岩前教授をはじめ多くの研究者によって統計的に立証されています。
健康のためには全館連続暖冷房のほうが優れている、しかし現状よりも省エネで暖冷房したい、そうなったとき、断熱等級7が必要になります。
同じ各室間欠暖冷房であれば(下図青線)断熱等級5,6,7はそれほど差が出ないように見えますが、全館暖冷房にしても同じエネルギーにできるのが断熱等級6、さらにエネルギーを削減できるのが断熱等級7なのです。